現代社会と腸内細菌の弱体化

私達の健康に役立つ腸内細菌達の餌は私達が摂取した食べ物です。しかし、どんな食べ物でも良いわけではなく、自分達が利用しやすい餌は決まっています。
このため、腸内細菌達は神経やホルモンを介して、自分達が利用しやすい食べ物を人間が食べるように仕向けます。ところが、腸内細菌達のこのシグナルを現代人の多くはキャッチできていません。これは私達が成長する過程において、これを食べたい、この食べ物が好きだという欲求や認識が外部からの大きな影響を受けるようになるためです。具体的には、ある食品を好ましく思う理由のひとつとして、経験に基づく学習効果をあげることができます。例えば、コーヒーやビールは最初はおいしく感じなかったのに、大人になったり、経験を重ねるとだんだんおいしく感じるようになるといったことがあります。これは依存性のある成分の影響もありますが、おいしい・まずいという感覚が様々な情報、先入観の影響を受けて変化していることも大きな要因だと考えられます。つまり、人間は外部要因に大きく影響されて、食行動が変化するのです。
また、私達は着色され、腐敗しないように処理された食品に囲まれてしまっているため、その食品が体に良いか悪いかを判断する感覚が鈍くなっています。
しかし、そのような食品は、腸内細菌達が最も嫌うもので、これらを食べることで私達は日々腸内細菌達を殺してしまっています。すなわち、現代社会において私達は様々な外部要因に影響されて腸内細菌が求める食べ物を摂らず、そればかりか腸内細菌を弱らせるものを多く摂取してしまっているのです。そして今、弱ってしまった腸内細菌達は、様々な疾患やウィルスに対応できずにいます。今までの説明で分かるように私達は自分一人の力で生きているわけでは無く、腸内細菌などの微生物と共に暮らしています。それゆえ、微生物達の悲鳴を無視することで、結果的に私達自身の生命や健康に大きな危機が訪れることになるのです。

腸内細菌の働き

野生動物達は教えられたわけでもないのに、食べられる物を見極めることができます。これはなぜでしょうか。実は動物は進化の過程で身につけた感覚(特に味覚と嗅覚)に基づいて、その食べ物に必要な栄養があるか、毒物がないかを判断することができます。すなわち、全ての動物にとって必要な栄養はおいしく感じられるようになっており、毒物等は常に嫌な味(苦味、酸味)として捉えられるのです。このような感覚は人を含めた多くの動物に共通しています。そして、この感覚は腸内細菌達の指示による下位脳幹部での反射的な機能なのです。つまり、腸内細菌達がいることで、私達も含めた動物は必要な栄養を確実に摂取し、危険な毒物を避けることができているのです。
ところで、腸内細菌も生き物なので、必ずエネルギー源を必要とします。腸内細菌の主なエネルギー源は、私達の細胞と同じで炭水化物ですが、主に「食物繊維」が腸内細菌のエサとなっています。しかし、腸内細菌は炭水化物が不足すると動物性たんぱく質などを分解し始めます。動物性たんぱく質は分解される際に、健康にあまりよくない物質を作り出してしまいます。このため、食物繊維などの炭水化物をしっかりと腸内に届けることが大切なのです。しかしながら、食物繊維を多く摂ることができる野菜料理を苦手、嫌いという人も多くいます。これは野菜の旨味を完璧に出し切る調理法で調理していないからなのです。